
その椎間板の狭さ、本当に“今日の腰痛”の原因ですか?
腰が痛くて病院を受診し、レントゲンを撮った。
そこで、
「椎間板が狭くなっていますね」
「少し変形がありますね」
「年齢による変化ですね」
そんな説明を受けたら、どう感じるでしょうか。
「だから腰が痛いんだ」
「腰が悪くなっているんだ」
「もう元には戻らないんじゃないか」
「動いたらもっと悪くなるんじゃないか」
そう考えてしまう方は少なくありません。
でも、ここで一度考えてみてほしいのです。
その画像所見は、本当に“今あなたが感じている腰痛”の原因なのでしょうか?

その椎間板の狭さ、今日できたものですか?
たとえば、昨日まで普通に生活していた人が、今日突然ぎっくり腰になったとします。
レントゲンを撮ったところ、
「椎間板が狭くなっています」
と言われた。
では、その椎間板はぎっくり腰になった瞬間に突然狭くなったのでしょうか?
通常、そのようには考えません。
椎間板腔の狭小化や脊椎の変形は、多くの場合、長い時間をかけて生じてきた変化です。
つまり、
「今日、腰が痛くなった時期」と「画像に写った変化が生じた時期」は別の話です。
以前から存在していた変化が、腰痛をきっかけにレントゲンを撮ったことで「発見された」にすぎない可能性もあります。
ちなみに、レントゲンでは椎間板そのものが直接きれいに写っているわけではありません。
上下の椎体の間隔などから、「椎間板腔が狭くなっている」と評価しています。
画像に変化がある。
これは事実かもしれません。
しかし、
「変化がある」ことと、「それが今の痛みを起こしている」ことは同じではありません。
ここは非常に重要です。
痛くない人にも、椎間板の変性はたくさんあります
では、腰がまったく痛くない人の腰をMRIで撮ったらどうなるのでしょうか。
何も異常がないのでしょうか。
実は、そんなことはありません。
Brinjikjiらが行った系統的レビューでは、腰痛のない3,110人を対象とした研究を解析したところ、画像上の椎間板変性は、
20歳で約37%
50歳で約80%
80歳で約96%
に認められました。
つまり、腰が痛くない人にも椎間板の変性は非常によく見つかるのです。
もし、
「椎間板が変性している=腰が痛い」
という関係が単純に成立するのであれば、こうした痛みのない人たちをどう説明すればよいのでしょうか。
画像に異常があるから痛い。
変形しているから痛い。
椎間板が狭いから痛い。
人間の痛みは、残念ながらそこまで単純ではありません。
そもそも椎間板は、全部が痛みを感じる組織ではありません
ここも少し専門的ですが、大切なところです。
正常な椎間板では、神経線維は主に外側の線維輪に分布しています。
椎間板の深部や中心にある髄核には、正常な状態では神経線維はほとんど認められません。
一方、椎間板が変性した状態では、本来は神経の少ない深い部分まで神経線維が入り込むことが報告されています。
ですから、
「椎間板は絶対に痛みを出さない」
というのも正確ではありません。
椎間板由来の疼痛が存在する可能性はあります。
しかし、それと、
「画像で椎間板が変性しているから、この人の腰痛はそこから出ている」
と断定することはまったく別の話です。
画像だけを見て、現在の疼痛発生源まで特定することはできません。
「関係がある」と「原因である」は違います
ここで誤解していただきたくないのは、
「椎間板の変性と腰痛にはまったく関係がない」
と言っているわけでもない、ということです。
実際に、椎間板変性などの画像所見は、腰痛のない人よりも腰痛のある人に多くみられるという研究もあります。
ですから、画像所見には意味があります。
ただし、
「腰痛のある人に多い」ことと、「あなたの今の腰痛の原因がそれである」ことは違います。
これは医学を考えるうえで非常に重要なポイントです。
関連があることと、因果関係が証明されていることは同じではありません。
私は画像検査を否定しているのではありません。
画像だけで痛みを説明し切ろうとすることに慎重であるべきだ、と考えています。
ぎっくり腰で本当に大切なのは「今、何が起きているのか」
急に腰が痛くなったとき、私たちが確認しなければならないことはたくさんあります。
発症した状況。
どのような動作で痛むのか。
神経症状はないか。
身体を動かしたときの反応。
関節や筋肉の状態。
日常生活にどの程度影響しているのか。
そして何より、骨折、感染症、腫瘍など、見逃してはいけない疾患を疑わせる徴候――いわゆるレッドフラッグがないか。
こうした情報を総合的に考える必要があります。
実際、American College of Radiology(ACR)の腰痛画像診断に関する基準でも、レッドフラッグのない急性腰痛について、初期段階でのルーチンの画像検査は通常推奨されていません。
これは「画像検査には意味がない」という話ではありません。
必要な人には非常に重要です。
骨折、感染症、腫瘍などが疑われる場合には、画像検査は診断上きわめて重要な役割を果たします。
しかし、すべての腰痛を画像だけで説明できるわけではありません。
私は、レントゲン写真を治療するわけではありません。
目の前の患者さんを観察しています。
「狭い」「潰れている」「変形している」という言葉が、痛みを強くすることもある
私はここをとても重要だと考えています。
「椎間板が狭くなっています」
という説明を聞いた患者さんが、
「腰が壊れているんだ」
と理解してしまうことがあります。
すると、
「動いたらもっと壊れるんじゃないか」
「なるべく動かさない方がいいんじゃないか」
「この腰では仕事を続けられないかもしれない」
と不安が広がっていくことがあります。
痛みは、単純に組織の損傷だけで決まるものではありません。
不安、恐怖、過去の経験、睡眠、ストレス、痛みに対する考え方など、さまざまな要素によって影響を受けます。
これは「気のせい」という意味ではありません。
人間の痛みというものが、そもそもそういう仕組みを持っているということです。
だからこそ、医療者が使う言葉はとても大切です。
画像の説明は患者さんを安心させることもあれば、逆に痛みへの恐怖を強めてしまうこともあります。
「狭い」
「潰れている」
「すり減っている」
「変形している」
こうした言葉だけが一人歩きして、
「私の腰は壊れている」
という認識を患者さんに作ってしまうのであれば、それは決して小さな問題ではありません。
画像に変化があっても、「あなたの腰は壊れている」とは限りません
椎間板が狭くなっている。
変形がある。
それ自体を否定する必要はありません。
画像に写っているものを「ないこと」にする必要もありません。
ただ、その画像所見だけを見て、
「だからあなたの腰は痛いんです」
と単純に結びつける必要もありません。
まして、
「もう治らない」
「動かしてはいけない」
「ずっと腰をかばって生活しなければならない」
と考える必要はありません。
腰痛が出る前から存在していた可能性の高い画像所見を見て、必要以上に自分の身体を「壊れたもの」と考えないでください。
画像は大切。でも、画像だけでは痛みは説明できません
最後にもう一度。
私はレントゲンやMRIなどの画像診断を否定しているわけではありません。
重大な病気を疑う場面では、画像検査は非常に重要です。
しかし、
画像に写った構造の変化と、今感じている痛みを安易にイコールで結ぶことにも慎重であるべきです。
「椎間板が狭い」
という説明を受けたとき、
そこで思考を止めないでください。
その椎間板の狭さ、本当に“今日の腰痛”の原因ですか?
腰痛を見るときに必要なのは、
「どこが変形しているか」
だけではありません。
「なぜ今、この人が痛いのか」
そこまで考えることが、私は大切だと思っています。
参考文献
・Brinjikji W, et al. Systematic Literature Review of Imaging Features of Spinal Degeneration in Asymptomatic Populations. AJNR Am J Neuroradiol. 2015.
・Brinjikji W, et al. MRI Findings of Disc Degeneration are More Prevalent in Adults with Low Back Pain than in Asymptomatic Controls: A Systematic Review and Meta-Analysis. AJNR Am J Neuroradiol. 2015.
・Groh AMR, et al. Innervation of the Human Intervertebral Disc: A Scoping Review. Pain Medicine. 2021.
・American College of Radiology. ACR Appropriateness Criteria® Low Back Pain.






