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最近、綿のTシャツをいくつか着比べてみました。
同じ「綿のTシャツ」でも、肌ざわりや汗の吸い方は意外と違うものです。
肌に触れたときにやわらかいもの、汗を吸ってくれるものは、着ているだけで身体が少し楽に感じます。
反対に、少しゴワゴワする、汗を吸いにくい、首まわりや縫い目が気になる服は、知らないうちに身体の緊張につながることがあります。
「服の肌ざわりくらいで?」と思う方もいるかもしれません。
しかし、皮膚科学の視点から見ると、肌ざわりは単なる好みの問題だけではありません。
皮膚は、ただ身体を包んでいるだけではありません
皮膚は、身体の表面を覆っているだけの膜ではありません。
外からの刺激を受け取り、体温を調整し、身体を守り、神経や免疫とも深く関わっています。
熱い、冷たい、痛い、かゆい、気持ちいい、不快。
こうした感覚は、皮膚を通して脳に伝わります。
つまり皮膚は、外の世界と身体をつなぐ大切なセンサーでもあります。
服のこすれ、汗のベタつき、締めつけ、タグのチクチク感、縫い目の違和感。
こうした小さな刺激も、皮膚から身体へ入り続ける感覚入力です。
一瞬なら気にならなくても、一日中続くと、身体にとっては小さなストレスになります。
皮膚にもストレスに反応する仕組みがあります
近年の研究では、皮膚にもストレスに反応する仕組みがあることが分かってきています。
ストレスというと、脳や自律神経、ホルモンの問題を思い浮かべる方が多いかもしれません。
たしかに、強いストレスを受けると、脳の視床下部、下垂体、副腎を結ぶHPA軸という仕組みが働き、コルチゾールなどのストレス関連ホルモンが関わります。
しかし、皮膚にもこれに似た末梢性のストレス応答系があり、皮膚のバリア機能や炎症反応に関係することが報告されています。
皮膚の細胞は、外からの刺激や炎症などに反応し、CRH、ACTH、βエンドルフィン、グルココルチコイドなどのストレス関連物質の働きに関わることがあります。
つまり皮膚は、ただ刺激を受け取っているだけではありません。
外からの刺激に対して、皮膚そのものも反応しているのです。
コルチゾールと皮膚バリア
コルチゾールは、一般に「ストレスホルモン」として知られています。
もちろん、コルチゾールは悪者ではありません。
身体がストレスに対応するために必要なホルモンです。
ただし、ストレス状態が長く続いたり、皮膚への刺激や炎症が続いたりすると、皮膚のバリア機能や炎症反応に影響する可能性があります。
研究では、心理的ストレスが皮膚バリア機能を悪化させること、また皮膚でのグルココルチコイドの働きがその一部に関わる可能性が示されています。
また、湿度などの環境変化が表皮の角化細胞におけるコルチゾール産生に関係する可能性を示した研究もあります。
そのため、ゴワゴワした生地、汗を吸いにくい服、強い締めつけ、皮膚のこすれなども、軽く見すぎない方がよいと考えられます。
もちろん、服の肌ざわりだけで大きな不調が起こるわけではありません。
しかし、皮膚はストレスに反応する臓器でもあるため、毎日身につける服の刺激は、身体にとって無視できない要素のひとつです。
皮膚と心は、双方向につながっています
「ストレスで肌が荒れる」という経験をしたことがある方は多いと思います。
忙しい時期、睡眠不足が続いたとき、精神的に疲れているときに、肌の調子が悪くなる。
これは珍しいことではありません。
一方で、皮膚の不快感が続くことで、気分が落ち着きにくくなることもあります。
かゆみ、チクチク感、汗のベタつき、服の締めつけなどが続くと、無意識にイライラしたり、集中しづらくなったり、身体に力が入りやすくなったりします。
皮膚と心は、一方通行ではありません。
心の状態が皮膚に影響することもあれば、皮膚からの刺激が心や身体の緊張に影響することもあります。
山口創先生は、触覚や皮膚感覚と心の関係について多くの研究・著作をされています。
心地よい触覚刺激は安心感やリラックスに関係し、不快な皮膚刺激は緊張やストレス反応と関係する可能性があります。
こう考えると、肌ざわりの良い服を選ぶことは、単なる好みやぜいたくではありません。
身体が安心しやすい環境を整えることでもあります。
慢性的な痛みや不調がある方ほど、小さな刺激が気になりやすいことがあります
慢性的な痛みや不調がある方は、身体が過敏になっていることがあります。
痛みは、筋肉や関節など組織の状態だけで決まるわけではありません。
睡眠、ストレス、不安、疲労、活動量、気温、湿度、人間関係、仕事の負担など、さまざまな要素が関係します。
これを、生物・心理・社会モデルといいます。
その中には、衣類の肌ざわりや汗の不快感のような、日常の小さな刺激も含まれます。
たとえば、睡眠不足が続いている。
仕事や家庭のストレスが強い。
痛みに対する不安がある。
疲労が抜けない。
こうした状態では、普段なら気にならない小さな刺激でも、身体が緊張しやすくなることがあります。
ゴワゴワした服、汗でベタつく服、締めつけの強い服、首元が気になる服。
こうした刺激が続くと、肩や首に力が入りやすくなったり、呼吸が浅くなったり、気分が落ち着きにくくなったりすることがあります。
服選びもセルフケアのひとつです
痛みや不調の対策というと、運動、ストレッチ、治療、薬、睡眠、食事などを考える方が多いと思います。
もちろん、それらは大切です。
しかし、毎日身につける服を見直すことも、立派なセルフケアのひとつです。
ポイントは、高価な服を選ぶことではありません。
自分の身体が楽に感じる服を選ぶことです。
たとえば、次のような点を見直してみるとよいでしょう。
・肌ざわりがよい
・汗を吸いやすい
・締めつけが少ない
・縫い目やタグが気にならない
・首まわりが苦しくない
・暑すぎない、冷えすぎない
・着ていることを忘れられる
特に大切なのは、「着ていて気にならない」という感覚です。
服の不快感に注意が向き続けると、それだけでも身体は疲れます。
反対に、着ていることを忘れられるような服は、余計な感覚入力を減らしてくれます。
身体が安心しやすい環境を整える
肌ざわりの良い服を選ぶことは、痛みを直接治す方法ではありません。
しかし、皮膚への余計な刺激を減らし、身体が安心しやすい環境を整えることには意味があります。
慢性的な痛みや不調がある方ほど、「何をするか」だけでなく、「何を減らすか」も大切です。
無理な運動を増やす前に、身体に入り続けている小さなストレスを減らす。
その一つが、衣類の肌ざわりを見直すことです。
毎日身につけるものだからこそ、皮膚にやさしいもの、汗を吸いやすいもの、締めつけの少ないものを選んでみてください。
身体が少し楽に感じる服は、心にも少し余裕を作ってくれるかもしれません。
肌ざわりを整えること。
それも、日常でできるセルフケアのひとつです。
皮膚科学はね、面白いですよ。
参考文献
Lin TK, Zhong L, Santiago JL. Association between Stress and the HPA Axis in the Atopic Dermatitis. International Journal of Molecular Sciences. 2017;18(10):2131.
Chen Y, Lyga J. Brain-Skin Connection: Stress, Inflammation and Skin Aging. Inflammation & Allergy - Drug Targets. 2014;13(3):177-190.
Choe SJ, Kim D, Kim EJ, et al. Psychological Stress Deteriorates Skin Barrier Function by Activating 11β-Hydroxysteroid Dehydrogenase 1 and the HPA Axis. Scientific Reports. 2018;8:6334.
Zhu G, Janjetovic Z, Slominski A. On the role of environmental humidity on cortisol production by epidermal keratinocytes. Experimental Dermatology. 2014;23(1):15-17.
山口創. 皮膚感覚と心. 日本化粧品技術者会誌. 2022;46(1):6-12.
傳田光洋.皮膚は考える.第三の脳
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