
さいたま市よりお越しのAさん。
3年前、足を挙げた動作をきっかけに腰痛と右膝の痛みが出現しました。医療機関での検査では、腰はすべり症、膝は変形性膝関節症と説明を受けています。最近では右足にしびれも出るようになり、疲労がたまると症状が強くなるとのことでした。
来院時、腰は痛みの影響でやや横に傾いていました。伸展のみ可動域制限がありましたが、神経脱落症状は認められません。膝は軽度の伸展制限があり、特にももの筋肉の緊張が強い状態でした。
Aさんは施術への反応が非常に良く、2回目の来院時には「最初と比べて8割ほど楽になった」と話されていました。その後、肩こりの施術も併行していますが、こちらも順調です。
では、なぜ同じような症状でも「すぐに回復する方」と「時間がかかる方」がいるのでしょうか。
急性の痛みや、急性期が長引いただけの状態であれば、比較的スムーズに改善することが多いものです。しかし、痛みそのものが“持続する状態”として脳や神経系に定着してしまった場合(いわゆる慢性痛の病態)、単に組織を整えるだけでは十分でないことがあります。
痛みの研究をされてきた生理学者の先生方も、痛みの仕組みを正しく理解することの重要性を繰り返し述べています。私自身も臨床の中で強く実感しています。
痛みに対する誤った認識や、「動くと悪化するのではないか」という強い恐怖、不安が続くと、身体は防御的に緊張し、結果として回復がゆっくりになります。
Waddellら(1993)は、腰痛患者におけるFear-Avoidance Beliefsが機能障害と有意に関連することを示し、恐怖回避モデルの基礎を築きました。
逆に、痛みのメカニズムを理解し、「必要以上に怖がらなくてよい」と腑に落ちたとき、体は驚くほど素直に反応してくれることがあります。
このコラムでも何度か触れていますが、
不安が軽減した時点で、治療は半分成功している
と言っても過言ではありません。
痛みそのものだけでなく、痛みに対する“意味づけ”を整えていくこと。
それが回復のスピードを左右する大きな要素なのです。
参考文献
Waddell G, Newton M, Henderson I, Somerville D, Main CJ.
Fear-Avoidance Beliefs in Patients With Low Back Pain: The development of a questionnaire to measure fear-avoidance beliefs in patients with low back pain. Pain. 1993;52(2):157–168.


