
近年、痛みに対する考え方は大きく変わりつつあります。
かつて主流だったのは、
「骨の変形」「神経の圧迫」「組織の損傷」などを原因とする損傷モデル(生物医学モデル)です。
しかし現在は、痛みをより包括的に捉える
生物心理社会的疼痛モデル(Biopsychosocial Model)へと軸足が移っています。
生物心理社会的疼痛モデルとは
国際疼痛学会(IASP)は、このモデルについて次のように説明しています。
生物心理社会的モデルとは、医学的疾患、特に慢性の運動器痛を理解するにあたり、生物学的要因だけでなく、心理学的要因および社会的要因を含めて考えるべきだとする概念モデルである。
痛みは、身体的要素と心理社会的要素を明確に分離できるものではなく、精神生理学的行動パターンの相互作用として理解するのが最も適切である。
このモデルは、従来の生物医学的還元論に代わりつつあり、学際的アプローチは慢性疼痛に対して臨床的に有効であり、費用対効果にも優れている。
生物学的・心理学的・社会的要因は同時に扱われるべきであり、心理療法は理学療法や薬物療法などと組み合わせて用いられる必要がある。
(出典:IASP)
何が変わったのか?
このモデルが示しているのは、次のような事実です。
- 画像所見と痛みは必ずしも一致しない
- ストレスや不安は痛みを増幅させる
- 職場・家庭環境も痛みの持続に影響する
- 身体だけ治療しても、痛みが残ることがある
つまり、
「組織」だけではなく「人全体」を診る必要があるということです。
重要なのは“同時性”
生物・心理・社会の要因は、どれか一つが原因というより、
同時に影響し合っています。
- 身体の炎症
- 不安や破局的思考
- 周囲からの理解不足
- 仕事や経済的ストレス
これらは互いに絡み合いながら、痛みを強めたり長引かせたりします。
そのため治療も、
- 運動療法
- 徒手療法
- 薬物療法
- 心理的アプローチ
- 教育的介入
を統合的に行うことが、最も効果的であるとされています。
本当に必要なのは「意識の変化」
このモデルが広がるためには、
- 治療者側の理解
- 患者側の理解
その両方が変わる必要があります。
「異常があるから痛い」
という単純な構図から、
「身体・脳・心・環境が相互作用している」
という理解へ。
痛みを“壊れた部品”の問題ではなく、
“統合システムの反応”として見る視点が、これからの医療の土台になります。
痛みの捉え方が変われば、
治療の方向性も、患者さんの未来も変わります。
生物心理社会的疼痛モデルは、単なる理論ではなく、
慢性痛診療の質を底上げするための実践的フレームワークなのです。



