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使う言葉が、症状の寿命を決める
あなたが普段使う言葉によって、症状が長引くか、すぐに改善するかが決まるとしたらどうでしょうか。
なぜ、言葉が身体に影響を与えるのか。
それは、人は「思い描いたとおり」に行動し、身体を反応させてしまうからです。
アメリカの社会学者W・I・トーマスは、「ある状況を『現実』として定義すれば、それは結果的に本人の現実となる」と述べました。
これをコロンビア大学のR・K・マートン教授は「自己完結的な予言」と説明しています。
「痛みの予言」が現実を作るメカニズム
「この痛みで動けなくなるかも」という悲惨な未来を予測すると、脳は恐怖や不安を感じ、活動性を低下させます。
すると意識は痛みばかりに向き、筋肉の緊張からさらに痛みが増す……。
つまり、頭でイメージした「悪い予言」を成就させるような行動を、無意識に取ってしまうのです。
マートンによれば、「自己完結的な予言」は、状況に対する誤った定義(観念)から始まります。
痛み医療において、その最たるものが「椎間板ヘルニアが神経を圧迫するから痛い」「腰椎が変形しているから痛い」という、すでに否定されつつある古い常識です。
画像診断が植え付ける「マイナスの観念」
日本の痛み医療は、世界からかなり遅れていると言われています。
欧米ではすでに、レントゲンやMRIの視覚的な変化を痛みの原因とする「損傷モデル」は過去のものとなりました。
骨折や腫瘍などの重大な疾患を除けば、画像検査は役に立たないどころか、患者に「骨がボロボロだ」といったマイナスの観念を植え付けてしまいます。
その結果、患者は「壊れているから動けない」というイメージ通りに生活し、痛み回路を強化(負の学習)させてしまうのです。
そして、最悪の予言が的中したとき、こう口にします。 「ほら、やっぱり悪くなった」
実際、当院の臨床現場でも、こうしたメカニズムに気づいた患者さんから驚きの声が上がることが多々あります。
「知らず知らずのうちに、自分自身で悪い方向へ、治りにくい方向へと自分を追い込んでいたんですね……」
そう自覚された方は、驚くほどスムーズに考え方を修正し、回復への道を歩み始めます。
自分の思い込みが「痛みのアクセル」を踏んでいたと知ることは、決して自分を責めることではありません。
むしろ、「自分の意識次第で、そのアクセルは離せる」という希望に気づくプロセスなのです。
この「でも」「だから」「やっぱり」という言葉は、症状が固定化している方が無意識に使ってしまう、ブレーキの言葉なのです。
言葉を上書きし、脳を再教育する
もし、今の状況を変えたいのなら、まずは言葉とイメージを塗り替えましょう。
「画像上の異常=痛みの原因」ではないと知るだけで、イメージは変わり始めます。
それでも痛みが強く、ポジティブなイメージが持てない時は、言葉の「締めくくり」だけを変えてみてください。
「やっぱり痛む。……でも、ここから良くなっていく」
マイナスな言葉を吐いてしまっても、最後に肯定的な言葉を添える。これだけで脳への指令は変わります。
無意識は「現実」と「イメージ」を区別できない
レモンや梅干しを想像するだけで唾液が出るように、私たちの無意識(潜在意識)は、現実とイメージの区別がつきません。
心理学者フロイトが指摘した通り、私たちの身体の90%以上は無意識によって支配されています。
脳が「痛みの筋トレ」を続けてしまうのか、それとも「回復のステップ」を歩み出すのか。
あなたの無意識に、どちらの予言を与えたいですか?
使う言葉を、よーく選んでみましょう。
あなたは今、どんな言葉を使っていますか。
ここまで読んで、「そうは言っても、どうしても痛い時はどうすればいいの?」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。臨床現場でよくいただくご質問をQ&A形式でまとめました。
💡 「脳と痛み」のよくある質問(Q&A)
Q1. 「痛い」と言ってはいけないのでしょうか?我慢するのは辛いです。
A. 我慢する必要はありません。痛みは体からのサインです。
大切なのは、痛みを否定することではなく、その後の「言葉の付け加え方」です。
「痛い、最悪だ」で終わらせると脳は負の学習を深めますが、「痛い、でも少しずつ動けている」と肯定的な事実を付け加えることで、脳の過敏なアラートを鎮めることができます。
脳が痛みを学習してしまう『負の筋トレ』を止めるために、まずは言葉の終わりをポジティブに塗り替えてみましょう。
Q2. イメージだけで本当に痛みが変わるのですか?
A. はい、変わります。
脳には「可塑性(かそせい)」という、使った回路が強化される性質があります。
レモンを想像して唾液が出るのは、脳がイメージを「現実」と判断して体に指令を出した証拠です。
これと同じ仕組みで、「回復しているイメージ」を繰り返すことで、脳の痛み回路(中枢性感作)を上書きしていくことが可能です。
Q3. 画像診断で「異常がある」と言われたのですが、気にしなくて良いのですか?
A. 骨折や腫瘍などの重大な病気(レッドフラッグ)が否定されたのであれば、画像上の「変形」や「ズレ」は白髪やシワと同じ「加齢変化」であることがほとんどです。
「画像上の変化=痛みの犯人」と思い込むこと自体が、脳に強いストレスを与え、痛みを増幅させる原因(心理社会的要因)になります。
最新の医学では、構造の異常よりも「脳のシステムエラー」が痛みの本質だと考えられています。
Q4. 家族が「痛い痛い」とばかり言っています。どう接すればいいですか?
A. 「痛いと言わないで」と否定すると、かえって孤独感から痛みが強まることがあります。
まずは「辛いね」と共感した上で、「今日は少し歩けたね」「顔色が良くなったね」と、本人が無意識に見落としている「できていること(プラスの変化)」を言葉にして伝えてあげてください。
周囲からのポジティブなフィードバックが、本人の観念を塗り替える強力な助けになります。



