痛みは急性痛のうちになるべくとる

痛みは「長さ」だけでは判断できません

痛みには、比較的早く改善しやすいものと、改善までに少し時間がかかりやすいものがあります。

一般には「急性痛」「慢性痛」という言葉が使われますが、実際の臨床では、痛みが続いている期間だけで、その痛みの状態を判断することはできません。

発症してからそれほど時間が経っていなくても、心理的ストレスなどが強く影響している場合には、改善までに時間がかかることがあります。

反対に、ある程度長く痛みが続いていても、それが単純に急性痛の延長であれば、比較的早く改善することがあります。

大切なのは、

「どのくらい長く痛いか」ではなく、
「どのような状態の痛みなのか」

を見極めることです。

寝違えやぎっくり腰などの急性痛は、早めに痛みを軽減しながら身体を動かすことが慢性化予防につながると説明した漫画

比較的すぐに改善しやすい痛み

比較的早く改善しやすいものとして、次のような痛みがあります。

急性痛

ぎっくり腰や寝違え、捻挫など、身体に何らかの負担が加わったことをきっかけに生じる比較的新しい痛みです。

急性痛では、早い段階で適切な治療を行い、痛みを軽減して身体を動かしやすい状態にすることで、より早い改善が期待できます。

痛みを我慢しながら長く様子を見るよりも、早めに状態を確認し、必要な治療を行うことが大切です。

痛みが軽くなれば身体を動かしやすくなり、普段の生活にも戻りやすくなります。

急性痛が単に長引いているもの

痛みが数週間、あるいはそれ以上続いているからといって、すべてが慢性痛になっているわけではありません。

中には、急性痛がそのまま長引いているだけという場合もあります。

このような痛みでは、慢性痛のようにさまざまな要因が複雑に絡み合っているわけではないため、適切に治療すると、長く痛んでいたにもかかわらず比較的早く改善することがあります。

つまり、

「長い間痛かったから、治るまでにも同じだけ時間がかかる」

とは限りません。

痛みの記憶(レムナント)

もう一つ、比較的早く変化しやすいものに、痛みの記憶(レムナント)があります。

痛みのきっかけとなった身体の問題はすでに改善しているにもかかわらず、脳に痛みの反応が残っている状態です。

たとえば、以前はある動作をすると強く痛んでいたため、

「この動きをすると痛い」

という反応が脳に残ってしまうことがあります。

ところが、現在は身体の状態が改善しているため、その反応が変わると、長く続いていた痛みが比較的短期間で大きく変化することがあります。

急性痛よりも改善に時間がかかりやすい痛み

一方で、比較的時間がかかりやすいのが、

慢性痛急性期慢性痛です。

慢性痛

慢性痛では、痛みが長く続く間に、身体だけでなくさまざまな要因が関係するようになります。

たとえば、

  • 睡眠
  • 心理的ストレス
  • 痛みに対する不安
  • 身体の緊張
  • 活動量の低下
  • 仕事や家庭などの生活環境
  • 痛みを避ける行動
  • 脳や神経系の反応

などです。

このように痛みを維持している要因が増えてくると、単純な急性痛のように短期間で改善しにくくなります。

また、身体には恒常性(ホメオスタシス)といって、身体の状態をなるべく一定に保とうとする働きがあります。

たとえば、暑いときには汗をかいて体温を下げ、寒いときには身体を震わせて熱をつくることで、体温が大きく変化しないように調整しています。血糖値や血圧なども、同じように一定の範囲に保たれるよう調節されています。

痛みについても、痛みのある状態が長く続くと、その状態に身体や脳・神経系が適応し、「痛みがある状態」がいつもの状態になってしまうことがあります。

そのため、慢性痛では単に痛みの原因だけを取り除けばすぐ元に戻るとは限らず、痛みを軽減しながら少しずつ動ける範囲を増やし、身体を「痛みの少ない状態」に慣らしていく必要があります。

このように、状態を少しずつ変えていく過程が必要になるため、慢性痛は急性痛よりも改善に時間がかかりやすくなるのです。

発症したばかりでも時間がかかる「急性期慢性痛」

痛みが出てからまだそれほど時間が経っていないにもかかわらず、慢性痛のように改善まで時間がかかることがあります。

これを急性期慢性痛といいます。

急性期慢性痛では、発症の初期から心理的ストレスなどが痛みに強く影響しています。

たとえば、

仕事上の強いストレス、家庭内の問題、大きな不安、長期間続く緊張などを背景として、腰や首などに強い痛みが出ることがあります。

発症したばかりなので一見すると普通の急性痛に見えますが、痛みに心理的な要因が強く関係しているため、単純な急性痛よりも改善までに時間が必要になることがあります。

つまり、

「発症したばかりだから、すぐに良くなる」

とも限らないのです。

だから、痛みは急性痛のうちになるべくとる

急性痛の段階では、慢性痛に比べて、痛みを維持している仕組みがまだ複雑になっていないことが多くあります。

そのため、痛みが出たときには、できるだけ早い段階で適切な治療を行うことが大切です。

当院では、

痛みを軽減する

身体を動かしやすくする

普段の生活へ戻していく

という流れを重視しています。

ここでいう「痛みをとる」というのは、痛みがなくなるまで安静にしているという意味ではありません。

痛みを軽減しながら、状態に応じて身体を動かし、

「動いても大丈夫だった」
「前より楽に動けた」
「少しずつできることが増えた」

という経験を積み重ねていくことも大切です。

痛みを必要以上に恐れず、できるだけ早く普段の生活へ戻していくことが、痛みを長引かせないためにも重要になります。

慢性痛になったら治らないわけではありません

ここは、誤解してほしくないところです。

慢性痛になったら治らない、という意味ではありません。

慢性痛では、急性痛よりも痛みに関係している要因が増えているため、改善までに少し時間が必要になることがあります。

しかし、何が痛みを維持しているのかを整理し、それぞれの要因に対して適切に対応していくことで、状態を変えていくことは可能です。

急性痛と慢性痛では、治療に必要な時間や考え方が少し違うということです。

まとめ

痛みは、続いている期間だけで判断できるものではありません。

比較的早く改善しやすいのは、

・急性痛
・急性痛が単に長引いているもの
・痛みの記憶(レムナント)

です。

一方、

・慢性痛
・急性期慢性痛

では、急性痛と比べると改善までに少し時間がかかりやすくなります。

だからこそ、

痛みは、できるだけ急性痛のうちに治療する。

早い段階で痛みを軽減し、身体を動かしやすくして、普段の生活へ戻していくことが大切です。

そして、すでに慢性痛になっている場合でも、決して「もう治らない」ということではありません。

痛みが続いている理由を一つずつ整理しながら、改善を目指していきましょう。

※『急性期慢性痛』は心療内科医・中井吉英先生が用いている臨床概念で、一般的な正式診断名ではありません

急性痛・慢性痛・急性期慢性痛・痛みの記憶を分類し、痛みは急性期のうちに適切に治療することが大切だと説明する図

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