院に入った途端、身体が楽になるのはなぜ?―安心の記憶をセルフケアに活かす方法
この記事の要点

・院に入った途端に身体が楽になるのは、これまでの安心できた体験と、建物・声・雰囲気などが結びついているためです。

・痛みは身体の状態だけでなく、「ここは安全か」「また痛くなるのではないか」といった予測や不安によっても変化します。

・院で楽になった場面や感覚を思い出すことで、安心感を自宅でも再現し、セルフケアとして活用できることがあります。

先日、患者さんからこんなことを言われました。

「この建物に入った途端、身体が楽になるんです」

もちろん、うちの建物に痛みを消す特別な力があるわけではありません。

しかし、何度か通ううちに、

  • 話を聞いてもらえた
  • 身体の状態を分かりやすく説明してもらえた
  • 施術を受けて動きやすくなった
  • 不安が軽くなった
  • 笑って帰ることができた

こうした経験が積み重なると、院の建物や玄関、室内の雰囲気、施術を受ける場所、私の声などが、「ここに来ると安心できる」「少し楽になれる」という感覚と結びつくことがあります。

身体は「場所」と「体験」を一緒に覚えています

たとえば、梅干しを想像しただけで唾液が出たり、昔よく聴いた音楽を聴いて当時の感情がよみがえったりすることがあります。

これは、ある刺激と身体反応が結びつく条件反射の身近な例です。

痛みについても、期待、過去の経験、周囲の環境、施術者との関係などによって、感じ方が変化することがあります。安心できるという予測は痛みを弱める方向へ働くことがあり、反対に「悪くなるかもしれない」という不安や予測は、痛みを強く感じさせることがあります。

院で楽になった経験が繰り返されると、

この建物に入る

安心した経験を自動的に思い出す

身体の警戒や緊張がゆるむ

痛みが軽く感じられる

という反応が起こっても、不思議ではありません。

これは「気のせい」ではなく、これまでの経験をもとに身体が自動的に反応しているということです

痛みは、身体の損傷だけで決まるものではありません

痛みは、身体から送られてくる情報だけで機械的に決まるものではありません。

脳は、現在の身体の状態に加えて、

  • ここは安全か
  • また痛くなるのではないか
  • 誰かに助けてもらえるか
  • 自分で対処できそうか
  • 過去にここで何が起きたか

といった情報も含めて、痛みを調整しています。

そのため、身体そのものが急に変化していなくても、安心できる場所に入ったり、信頼できる人の声を聞いたりしたことで、身体の緊張や痛みの感じ方が変化することがあります。

安心できた場面を、頭の中でもう一度体験する

催眠では、以前に経験した場面や感覚を、頭の中でもう一度たどる方法があります。

これをリカピチュレーションと呼ぶことがあります。

難しいことをする必要はありません。

院に入ったときの光景、私と話しているときの声、施術台に横になった感覚、施術後に身体が動きやすくなったときの感覚などを、できる範囲で思い出していきます。

なぜ、思い出すだけで身体が変化するのでしょうか。

それは、無意識が想像と現実を区別していないからです。

頭では「これは思い出しているだけ」とわかっていても、無意識は、その場面をもう一度体験しているかのように反応します。

安心できた光景や声、身体が楽になった感覚を具体的に思い出すほど、そのときの安心感や身体の反応もよみがえりやすくなります。

つまり、院で一度経験した「ここに来ると楽になる」という反応を、頭の中でもう一度再現することができるのです。

少し楽になりたいときのセルフケア

身体に力が入っているときや、痛みが気になって落ち着かないときに、次のように試してみてください。

椅子や布団など、楽な姿勢になり、ゆっくり息を吐きます。

そして、当院に来た場面を思い浮かべてみます。

入口を入り、院内へ入っていくところ。
私と話しているときの声や会話。
施術を受けているときの身体の位置。
施術後に立ち上がり、変化したときの感覚。

映像がはっきり見えなくても構いません。

声だけでも、雰囲気だけでも、「少し安心した」という感覚だけでも大丈夫です。

痛みを無理に消そうとせず、

「ここでは少し力を抜いても大丈夫だった」
「あのときの身体の感覚を、少し思い出してみよう」

という程度で行います。

ガイド付きイメージやリラクゼーションは、慢性痛や筋骨格系の痛みに対する補助的な方法として研究されています。
効果には個人差があり、これだけで痛みを治す方法ではありませんが、不安や緊張をやわらげ、自分で対処するための一つの手段になり得ます。

当院で得た安心を、自分で持ち帰る

大切なのは、

「院長がいなければ楽になれない」

という状態をつくることではありません。

当院で一度経験した安心感や、身体が少し楽になった感覚を、患者さん自身が思い出し、自宅や外出先でも利用できるようになることです。

当院は、施術を受けるだけの場所ではありません。

身体について理解し、安心して動ける経験を積み、そこで得たものを日常生活へ持ち帰るための場所でもあります。

院に入っただけで少し楽になるとしたら、それは身体が、

「ここでは少し警戒をゆるめても大丈夫」

と覚えてきたからかもしれません。

その感覚は、院の中だけのものではありません。
少しずつ、自分自身でも再現できるようにしていきましょう。

お得だしね。

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