
The Back Book
1997年、オーストラリア・ビクトリア州において、腰痛に対する考え方を見直すことを目的とした大規模なメディアキャンペーンが行われました。
キャンペーンのスローガンは
「腰痛に屈するな!(Back pain: don’t take it lying down)」。
この取り組みでは、当時の最新の科学的根拠に基づき、次のようなメッセージが発信されました。
- 腰痛の多くは、重篤な疾患ではない
- 危険信号(レッドフラッグ)がなければ、必ずしも画像検査は必要ない
- 腰痛の予後は概ね良好である
- 痛みがあっても、できる範囲で日常生活を維持することが大切
- 安静にしすぎず、可能であれば仕事を続けることが回復につながる
これらの内容は、The Back Book から抜粋されたメッセージとして、新聞やテレビなどのメディアを通じて広く周知されました。
さらに、この「The Back Book」自体も一般市民へ配布されました。
その結果、
- 医療費が約33億円削減
- 腰痛による欠勤日数の減少
といった、社会的にも非常に大きな成果が報告されています。
腰痛を悪化させるのは「腰」だけではない
この取り組みが示しているのは、
腰痛そのものよりも、腰痛に対する誤った考え方や行動が問題になりやすいという点です。
「動いたら悪化するのではないか」
「何か重大な病気が隠れているのではないか」
こうした過剰な不安や恐怖は、痛みを必要以上に強く感じさせ、回復を遅らせてしまうことがあります。
腰痛は、構造だけでなく、考え方・行動・環境も大きく関与する症状です。
正しい情報を知り、過度に恐れず、できる範囲で日常生活を続けることが、回復への重要な一歩となります。
レッドフラッグとは何か?
腰痛の評価において重要になるのが、レッドフラッグ(危険信号)の有無です。
レッドフラッグとは、腰痛の背景に重篤な疾患が隠れている可能性を示唆する所見や症状を指します。
代表的なものとしては、
- 明らかな外傷(高所からの転落、交通事故など)
- 安静にしていても増悪する強い痛み
- 発熱や原因不明の体重減少
- がんの既往歴
- 排尿・排便障害や進行する神経症状
などが挙げられます。
これらが認められる場合には、速やかな精査や医療機関での対応が必要になります。
一方で、レッドフラッグが認められない腰痛の多くは、予後が良好であることが分かっています。
このようなケースでは、画像検査を急ぐよりも、痛みを過度に恐れず、日常生活をできる範囲で維持することが回復につながると考えられています。



