異常がないのに痛みがある ― 画像と症状が一致しない理由 ―

当院のホームページには、どのような検索キーワードで見に来たかが分かる機能があります。
ある日目に留まったのが、

「異常がないのに痛みがある」

という検索ワードでした。

とても象徴的な言葉です。


「異常がない」とは何を指しているのか?

多くの場合、これは
レントゲンやMRIで異常が見つからなかった
という意味でしょう。

画像検査は本来、

  • 骨折
  • 悪性腫瘍
  • 感染症
  • 明らかな構造破綻

といった「特異的な疾患」を見分けるためのものです。

一方で、

  • 椎間板ヘルニア
  • 脊柱管狭窄症
  • 椎間板変性
  • 変形性脊椎症

といった所見があっても、必ずしも痛みがあるとは限りません。


痛みは“センサーの興奮”で起こる

運動器の痛みの多くは
侵害受容性疼痛 と呼ばれます。

これは「痛みセンサー(侵害受容器)」が興奮することで生じます。

しかし――

この“センサーの興奮”は、
画像では可視化できません。

つまり、

痛みがあっても画像に異常が出ないことは、むしろ自然なことなのです。


研究が示す事実

画像と症状が一致しないことは、多くの研究で示されています。

① 健康な人のMRI所見

腰痛や下肢痛を経験したことのない健康な方67名をMRIで調べたところ、

  • 椎間板ヘルニア
  • 脊柱管狭窄症
  • 椎間板変性
  • 変形性脊椎症

といった“構造異常”は、ごく一般的に見られました。


② ヘルニアは自然に縮小する

新潟がんセンター整形外科の研究では、
非内包性椎間板ヘルニアは約8週間で自然縮小するケースが多いことが確認されています。

その結果、椎間板手術の年間件数を約50%減らすことに成功しました。


③ 痛みのある人とない人の比較

強い腰痛・下肢痛を訴える46名と、
年齢・性別などを一致させた無症状の46名を比較。

その結果、

  • 健康な方の 76%に椎間板ヘルニア
  • 85%に椎間板変性

が見つかりました。


では、なぜ痛みが出るのか?

ここで重要なのが、

  • 組織の状態
  • 神経の感受性
  • 心理的要因
  • 生活環境
  • ストレス
  • 過去の経験

といった複合的な要素です。

痛みは「構造」だけで決まるものではありません。


制度と現実のギャップ

画像中心の診断体系は制度上の制約もあり、
なかなか大きく変わりません。

しかし、

患者さん側の知識がアップデートされることは可能です。

これが、痛みの“難民”にならないための第一歩です。


まとめ

  • 画像に異常がなくても痛みは起こる
  • 画像に異常があっても痛みがない人は多数いる
  • 痛みは「センサーの興奮」という機能的変化
  • 構造だけでは説明できない

「異常がないのに痛みがある」

それは矛盾ではなく、
現代の痛み科学ではごく自然な現象です。

まずはここから理解をアップデートすることが、
回復への最短距離になります。

参考文献

Jensen, M. C., Brant-Zawadzki, M. N., Obuchowski, N., et al. (1994).

Autio RA, Karppinen J, Niinimäki J, Ojala R, Kurunlahti M, Haapea M, et al.
Determinants of spontaneous resorption of intervertebral disc herniations. Spine (Phila Pa 1976). 2006;31(11):1247–1252. doi:10.1097/01.brs.0000217681.83524.4a

Boos, N., Rieder, R., Schade, V., Spratt, K. F., Semmer, N., & Aebi, M. (1995).

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