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マックス・プランク進化人類学研究所

腸内反応:ハツァ族女性の腸内菌は同族男性のものとは異なる。繊維質の多い塊茎根菜類を多く食しているためと考えられる。

抗生物質を摂取したり、何かの菌が腸内に侵入すると腸内の「自然なバランス」を回復させようとして多くの人が慌ててプロバイオティック入り飲料を飲む。プロバイオティックは食品業界の中でも目覚しい発展を遂げている分野の一つであり、今ではヨーグルト、飲料、ベビーフードなどに加えられてもいる。しかしながら健康を保ために全ての人がプロバイオティックを必要としているわけではない。

アフリカの狩猟民族の腸内菌についての新たな研究により解明されたのは、彼らの腸内にはプロバイオティックの中でも主要な位置を占め健康に役立つと考えられている菌が全く存在しないということだ。更に言うならばハツァ族には大腸癌、大腸炎、クローン病その他西欧で現代的な食生活を送る人々の間で見受けられるような大腸の病気が存在しない。

この研究は私たちの祖先が農耕に移行した1万年前まで行っていたように食料の殆どを狩猟採集で賄う狩猟民族の腸内菌について書かれた史上初の研究である。これまでの腸内菌の研究は産業が発展した国々で砂糖や塩分、脂肪分を多く摂取する食生活を送る人々に焦点が当てられていた。これらの食生活は腸内マイクロバイオーム(腸内細菌のまとまり・ネットワーク)とも呼ばれる腸内細菌叢の構成を変化させてきた。腸内バクテリアは食生活の変化に素早く反応しており、田舎で加工食品の少ない食生活を送る人々の腸内にはより多様な腸内細菌叢が存在する。

尚、腸内細菌叢の多様性の少なさと大腸炎、クローン病、大腸癌などの大腸に関する疾患の間には関連性があることも研究により解明されている。

新研究では、地上最後の狩猟採集コミュニティーの一つであるタンザニアのハザ族の糞便のサンプル内の細菌を採取・分析するべく国際的なチームが結成され共同で研究が行われた。ドイツ、ライプツィヒのマックス・プランク進化人類学研究所に大学院生として在学するStephanie Schnorr氏は論文研究の一部として本研究に携わり、ハツァ族に糞便のサンプルをお願いするという不可欠なタスクを担うこととなった。通訳者が彼女の意向を伝えると、パンダという年輩者から「いつも地面にするので、彼女にあげます」という返答があり、幸運に恵まれる事となった。

そうしてSchnorr氏はハツァ族の8歳から70歳までの糞便27サンプルを用意し、それを凍結した状態で、もしくは乾燥させた状態でイタリアのボローニャ大学に送った。ボローニャ大学のチームは細菌の抽出作業とDNA配列を専門としており、彼らはハツァ族のDNAを使い細菌を特定し、細菌が腸内でエネルギーを得るために用いる脂肪酸など細菌の代謝産物をはじめとして糞便内の栄養素も分析した。

チームがイタリア人とハツァ族を比較した際にハツァ族の腸内にはより多様な細菌の生態系が存在することが判明した。更にアフリカの2つの農業で暮らすグループの腸内バクテリアにも焦点を当てた際、ハツァ族だけがビフィズス菌として知られる通常プロバイオティック飲料に加えられているような菌種を持っていなかった。これはおそらくビフィズス菌がハツァ族が摂取しない酪農製品に関連して存在する細菌であるためと考えられる。

また、ハツァ族の腸内にはトレポネーマ菌も高いレベルで存在した。別種のトレポネーマ菌は全身性エリテマトーデス、歯周炎、梅毒と関連している菌であるために西欧では疾患の兆候として見做されている菌である。しかしハツァ族で自己免疫疾患や肥満、糖尿病など腸内細菌バランスの悪さに関連している疾患を患っている者はいない。

「「健康と見做されているもの」「不健康と見做されているもの」については明らかにどのような食生活を送るかで変わるため、私たちはその概念を定義し直す必要があります。」本研究の筆頭執筆者であり、ネバダ大学の栄養人類学研究者であるAlyssa Crittenden氏は、本日Nature Communicationsウェブサイト上に挙げられた本論文内でこう述べている。

またもう一つの驚くべき事実は此れまでの研究では性別による差意は見られた事がなかったが、今回ハツァ族の男性と女性の腸内細菌は種類においても量においても大きく異なることであった。この違いは男女の労働区分の違いが反映されている-ハツァ男性は狩をし肉や蜂蜜を食するのに対し、ハツァ女性は主に塊茎根菜類を掘り起こして食している。それぞれが自分が採ったものをより多く食するため女性の方がより繊維質の多い食事になっている。マックス・プランク研究所の古生物学者Amanda Henry氏は「ハツァ女性の腸内細菌は特に繊維質の消化に優れていると思います。」と話す。チームは現在ラボでハツァ族の腸内細菌のテストを行っており、彼らの腸内細菌は西欧人のそれよりも繊維質をより効率良く消化するかどうか研究している。

他の研究者たちによれば、これまでの研究ではヒトは他の霊長類よりも平均して腸内細菌叢の多様性が少ないということが示唆されているが、これはおそらくこれまでの研究では食生活や生活習慣の異なる多様な人々からの糞便のサンプルが採取されていないことが一つの原因となっていると考えられる。「本研究は人類において腸内細菌叢の多様性を見い出す手がかりとなるので非常に重要です。」コロラド大学の古生物学者Steven Leigh氏は語る。

「人類の食習慣の変化に伴い腸内バクテリアも共に進化を遂げたので、研究者にとってこのような情報は遠い祖先が世界に広がった際にどのように新たな生活習慣や食事に適応したのかを理解するための良い手がかりになるでしょう。そしてまるで一つの菌が全てに効果を発揮するかのごとく商業的に生産されたプロバイオティックを摂取する以前に細菌の多様性やそれぞれの細菌がどのように相互作用しているか(そして恐らく抗生物質に抵抗しているのか)を理解するのが大切なことでしょう。」Leigh氏は更にこのように述べている。

英文記事:goo.gl/i0jxcZ

African sunset with silhouetted trees

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