
目次
下肢痛は神経だけが原因ではありません
腰から脚にかけて痛みが現れると、
「神経が圧迫されているのではないか」
「椎間板ヘルニアや坐骨神経痛ではないか」
「このまま歩けなくなったらどうしよう」
と不安になる方は少なくありません。
しかし、下肢に痛みがあるからといって、必ずしも神経に異常が起きているとは限りません。
今回は、整形外科のレントゲン検査で異常を指摘されなかった左下肢痛が、比較的短期間で改善した60代女性の症例をご紹介します。
重い物を持って歩いたあとから左下肢に痛みが出現
患者さんは60代の女性です。
来院される3週間ほど前、重い物を持って歩いたあとから、左腰部から左下肢にかけて痛みが現れました。
買い物や家事、仕事、介護など、日常生活では重い物を持ったまま移動しなければならない場面があります。
そのときは問題なく動けていても、しばらくしてから腰や股関節周辺、脚に痛みが現れることもあります。
この方は整形外科を受診し、レントゲン検査を受けましたが、骨などに明らかな異常は指摘されませんでした。
しかし、痛みは続いていたため、当院へ来院されました。
神経の異常を示す症状はみられませんでした
当院で状態を確認したところ、左腰部と左股関節周辺に痛みがあり、仙腸関節周辺には腫れと可動域の制限がみられました。
一方で、次のような神経の働きが低下したときに現れる所見は認められませんでした。
- 明らかな感覚低下
- しびれ
- 筋力低下
- 腱反射の異常
- 麻痺
下肢痛がある場合、痛む場所だけを見るのではなく、痛みが現れた経緯や動作、関節の状態、筋力、感覚などを総合的に確認することが重要です。
今回の経過と身体所見から、神経の障害よりも、重い物を持って歩いた際に筋肉や筋膜、仙腸関節周辺へ負荷がかかったことによる筋膜性疼痛症候群(MPS)の可能性を考えました。
施術直後よりも、数日かけて痛みが軽減
評価した内容に基づいて施術を行いました。
施術直後の変化は、
「少し軽くなったかな」
という程度でした。
施術を受けた直後に痛みがすべて消えるとは限りません。身体に回復する力が残っていれば、その後の生活や睡眠を通して、数日かけて状態が落ち着いていくこともあります。
この方の場合も、施術から数日後には痛みがほぼ消失したとのことでした。
重い物を持って歩いたことで筋肉や筋膜、関節周辺に一時的な負荷がかかり、それが痛みとして現れたと考えられる症例でした。
※改善までの期間や施術による変化には個人差があります。
画像に異常がなくても痛みは起こります
「レントゲンで異常がないのに、なぜ痛いのでしょうか」
と質問されることがあります。
レントゲン検査は骨折や骨の変形などを確認するうえで重要ですが、筋肉や筋膜の状態、神経系の感受性など、痛みに関係するすべての要素が写るわけではありません。
したがって、
画像に異常がない=痛みが存在しない
という意味ではありません。
一方で、明らかな骨の異常が指摘されなかったことは、重篤な骨の損傷などを過度に心配せず、身体を少しずつ動かしていくための安心材料にもなります。
「異常が見つからないから原因不明」と悲観するのではなく、「深刻な損傷が見つからなかった」と前向きに捉えることが、回復を後押しする場合もあります。
画像上の変化が痛みの原因とは限りません
反対に、画像検査で椎間板の変形やヘルニアが見つかったとしても、それが現在の痛みの原因とは限りません。
Boosらが発表した1995年のVolvo Award論文では、腰痛などの症状がない参加者でも、76%に少なくとも1か所の椎間板ヘルニアが認められました。
つまり、
画像上の変化がある=必ず痛みが出る
画像上の変化がない=痛みは起こらない
という単純な関係ではないのです。
画像所見は大切な情報ですが、それだけで痛みの原因を決めることはできません。実際に現れている症状や身体所見、痛みが始まった経緯などと合わせて判断する必要があります。
急性痛では、必要以上に怖がらないことも大切です
今回のように発症から間もない痛みでは、身体の状態を適切に評価したうえで、必要以上に怖がらず、できる範囲で普段の生活を続けることが回復につながります。
痛みがあると動かすことが怖くなりますが、重篤な異常が疑われない場合、過度な安静によって身体がこわばり、かえって動きにくくなることもあります。
大切なのは、痛みを我慢して無理に動くことではありません。
- 強く痛む動作は一時的に控える
- できる範囲で日常生活を続ける
- 睡眠と休養を確保する
- 痛みを何度も確認しすぎない
- 少しずつ普段の動きへ戻す
このように、身体が回復しやすい環境を整えていきます。
痛みが長引くと不安や恐怖も影響します
急性期の痛みは、比較的スムーズに改善することが多い一方、痛みが長く続くと、
「また痛くなるかもしれない」
「動いたら悪化するのではないか」
「脚に痛みがあるから神経が壊れているのではないか」
といった不安や恐怖が強くなることがあります。
こうした気持ちは決して思い込みではありません。不安や警戒が続くことで神経系が過敏になり、痛みを感じやすい状態が続くことがあります。
だからこそ、身体への施術だけでなく、現在の状態を分かりやすく説明し、必要以上に不安を増やさないことも重要です。
早めに医療機関を受診したほうがよい症状
下肢痛の多くが深刻な病気によるものとは限りませんが、次のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。
- 急速に進行する筋力低下や麻痺
- 排尿や排便の異常
- 会陰部の感覚低下(自転車のサドルが当たる場所)
- 発熱や強い倦怠感を伴う痛み
- 転倒や事故のあとに生じた強い痛み
- 安静にしていても激しく痛み、悪化が続く場合
まず重篤な病気や神経障害の可能性を除外することが大切です。
まとめ
下肢に痛みがあると、神経の圧迫や椎間板ヘルニアを心配する方が多くいらっしゃいます。
しかし、下肢痛は筋肉や筋膜、関節周辺への負荷によっても起こります。
今回の症例では、神経の働きが低下したことを示す所見はなく、筋膜性疼痛症候群の可能性を考えて施術を行ったところ、数日後には痛みがほぼ消失しました。
画像検査の結果だけで痛みの原因を決めつけず、身体所見や経過を含めて総合的に評価することが重要です。
「画像に異常はないと言われたけれど、痛みが続いている」
「下肢の痛みが神経の問題なのか不安」
という方は、一人で心配を抱え込まずご相談ください。






