
腰痛は日本人の自覚症状のトップ
腰痛は、日本人の自覚症状の中で長年トップを占めています。
厚生労働省「国民生活基礎調査(2010)」によると、統計開始から24年間で腰痛を訴える人は約57%も増加していると報告されています。
医療技術が進歩し、画像診断機器も高度化している現代において、なぜ腰痛は減らないのでしょうか。
画像と痛みは一致しない
数多くの対照試験や体系的レビューにより、画像所見と腰痛の程度には強い相関がないことが明らかになっています。
(※悪性腫瘍、骨折、感染症などの明確な病変がある場合は除きます)
椎間板の変性や脊柱管の狭窄があっても痛みがない人は多数存在しますし、画像上ほとんど異常がなくても強い痛みを訴える人もいます。
つまり、「変形しているから痛い」「神経が圧迫されているから痛い」という従来の説明だけでは、腰痛のすべてを語れないのです。
診断モデルの転換
近年、痛みの理解は
「損傷モデル」から「生物心理社会的疼痛モデル」へ
と大きくシフトしています。
昨年末には日本でも腰痛診療ガイドラインが整備され、痛みとストレス、心理社会的要因との関連が広く取り上げられるようになりました。メディアの影響力は大きく、こうした情報が広まることは非常に意義深いことです。
しかし、これまで長年にわたり「構造の異常=痛み」と説明され続けてきた背景があるため、考え方の転換は決して簡単ではありません。医療現場でも、この説明に苦労しているところは少なくないでしょう。
私の院でも、この部分の説明が最もエネルギーを使う仕事です。
理解が回復を加速させる
痛みの仕組みを理解することは、治療において極めて重要です。
私は「正しい理解ができれば、治療の半分は達成されたも同然」と考えています。
実際、話を聞いて認知のゆがみが修正されただけで、症状が軽減していく方もいます。
それほどまでに、脳の解釈や意味づけは痛みに影響を与えるのです。
知識をアップデートする
難しい医学書を読む必要はありません。一般向けにも、痛みを正しく理解するための良書は数多くあります。
・熊澤孝朗先生『痛みを知る』
・長谷川淳史先生『腰痛ガイドブック』
・拙著『痛みの正体を知れば腰痛は治せる』
これらはいずれも、生物心理社会的疼痛モデルの視点を学ぶうえで大きな助けになります。
特に、痛みのメカニズムをわかりやすく整理し、「なぜ治らないのか?」という疑問に正面から向き合った書籍は、回復への第一歩になります。
痛みの「難民」にならないためにも、まずは知識のアップデートから始めてみてください。
回復を後押しする姿勢とは
治療において大切なのは、受け身ではなく主体性です。
- 「この人に治してもらう」ではなく「自分が回復に向かう」
- 最新かつ信頼できる情報を学ぶ
- 痛みに過度に注目しない
- 否定的な言葉を繰り返さない
- できないことではなく、できたことに目を向ける
- 痛みがあっても少しずつ行動範囲を広げる
- 回復した人の話に触れる
そして何より大切なのは、
痛みがなくなったら何をしたいかを具体的に思い描くこと。
行きたい温泉、旅行先の写真、やりたい趣味。
回復後の未来をイメージすることは、脳にとって非常に強いメッセージになります。
気分が沈み続ける状態よりも、前向きな感情を持つほうが回復が早まることは、実験的研究でも示されています。
腰痛は「壊れているから痛い」という単純な問題ではありません。
だからこそ、理解が力になります。
皆さんの痛みが一日でも早く和らぎ、
やりたいことに向かって歩き出せますように。



