
前回の記事では、「正常な神経は圧迫しても痛みを発生しない」という文献的整理を行いました。
では、脊柱管や神経管を圧迫した場合、本当に痛みは生じるのでしょうか。
目次
神経線維の基本的な性質
「神経線維は通常、その末端にある受容器からの信号を伝えるものであって、その途中が興奮を起こすことはない。」
(『痛みを知る』より)
神経線維は電気信号を伝導する構造であり、通常は途中から電気信号を発生させません。
例外として、
- 脱髄部
- 神経腫
- 再生中の末梢神経の側芽
など、既に損傷を受けた神経は機械刺激によってインパルス(電気信号)を発生させることがあります。
しかし、正常な神経では一般的ではありません。
画像所見と症状は一致するのか
臨床上重要なのは、以下の事実です。
- 無症状の方にも椎間板ヘルニアは存在する
- 無症状の方にも脊柱管狭窄は存在する
- 変形性疾患も同様
つまり、
構造的異常 = 症状
とは限らないということです。
ヘルニアは何を圧迫するのか
解剖学的に、椎間板が後方へ突出した場合、まず接触しやすいのは運動神経成分です。
その後方に感覚神経があります。
しかし実際の臨床では、
- 痛み
- しびれ
を訴える方が大半であり、
- 明らかな運動麻痺
- 触覚などの感覚脱失
を伴う例は多くありません。
もし強い圧迫があるのであれば、運動麻痺や明確な感覚脱失が前面に出るはずです。
神経麻痺とは何か
神経麻痺は「神経脱落症状」です。
具体的には、
- 知覚鈍麻
- 知覚脱失
- 神経原性筋萎縮
- 運動麻痺
が挙げられます。
中枢性麻痺の特徴
- 深部腱反射亢進
- 病的反射出現
- 筋トーヌス亢進(痙性麻痺)
- 手指巧緻性障害
末梢性麻痺の特徴
- 深部腱反射低下または消失
- 筋トーヌス低下(弛緩性麻痺)
これらは明確な神経障害所見です。
また、馬尾症候群の場合は緊急性が高く、48時間以内の外科的対応が必要とされます。
では痛みはどこから来るのか
強い神経障害所見を伴わず、
- 痛み
- しびれ
のみが主症状である場合、単純な「神経圧迫」だけでは説明が不十分なことがあります。
神経根周囲の炎症反応、受容器の過敏化、神経系の感作など、複合的要因が関与している可能性があります。
まとめ
- 正常な神経は圧迫されても痛みを発生しにくい
- 画像上の異常と症状は一致しないことがある
- 強い圧迫があれば麻痺などの脱落症状が出現する
- 痛みのみの場合は別の機序を考慮すべき
「圧迫されているから痛い」という単純な説明ではなく、
神経生理と臨床所見を踏まえた評価が重要です。



