
腰椎椎間板ヘルニア
山梨県よりお越しのAさん。
1週間前から、腰から右大腿後面にかけて強い痛みが出現しました。
整形外科では「椎間板ヘルニア。経過が悪ければ手術」と説明を受け、不安な表情で来院されました。
初診時は痛みのため足を引きずり、体幹は側屈位。
いわゆる疼痛性側湾の状態でした。
検査では
- 腰椎伸展制限
- 右仙腸関節部の腫脹
- しかし神経脱落症状は認められず
筋力低下や感覚鈍麻といった神経機能の障害はありませんでした。
ヘルニア=すぐ手術?
椎間板ヘルニアという言葉は強い印象を与えます。
しかし、
- 無症状の方にもヘルニアは普通に存在します
- 画像所見と痛みは必ずしも一致しません
実際、健常者でも椎間板の突出は高頻度に認められることが知られています。
手術と保存療法
研究では、
- 手術は短期的には優位性を示すことがある
- しかし長期的には保存療法との差が縮まる
という報告もあります。
もちろん、
- 進行性の麻痺
- 排尿障害
- 明確な神経脱落症状
があれば、外科的判断は重要です。
ですが、今回のAさんにはその所見はありませんでした。
神経は圧迫すると痛むのか
生理学的には、
神経線維自体を圧迫しただけでは痛みは生じません。
痛みは主に侵害受容器の刺激によって生じます。
神経そのものが異常発火する場合は、
損傷や脱髄など特殊な条件が必要です。
Patric Wallの指摘
神経生理学者Patric Wallは『疼痛学序説』の中で、
- 椎間板ヘルニアの頻度は、痛みのある人とない人で差がない
- 手術件数は国によって大きく異なる
- これは医学的事実だけでなく医療文化の影響を反映している
と指摘しています。
実際、10万人あたりのヘルニア除去手術数は国によって大きく差があります。
(英国100人、スウェーデン200人、フィンランド350人、米国900人という報告)
これは「どの程度を手術適応とするか」という判断基準の違いを示しています。
Aさんの経過
初回の施術では大きな変化はありませんでした。
しかし1ヶ月後、2回目の来院時には
痛みは半分程度まで軽減。
身体は本来、回復する力を持っています。
大きな神経障害がなければ、
保存療法で十分改善するケースは少なくありません。
まとめ
椎間板ヘルニアと診断されても、
- すべてが手術対象ではありません
- 画像=痛みの原因とは限りません
- 神経脱落症状の有無が重要です
冷静に評価し、適切に経過を見ること。
それが最も安全で合理的な選択になることもあります。
ゲートコントロール説で有名な神経生理学のPatric Wallはその著書「疼痛学序説」で次のように述べています。
「腰痛の原因は椎間板ヘルニアであると、ふつう信じられている。椎間円板は椎骨の間から突出して、感覚線維を含む脊髄後根を圧迫すると信じられている。椎間板ヘルニアはX線写真で見ることができる。そして、人口の1~3%に存在する。椎間板ヘルニアの頻度は、痛みをもつ人たちともたない人たちで同じである。椎間板ヘルニアがあって痛みをもつ人々が、外科手術以外の方法で治療されると椎間円板の突出した部分は消えたり、消えなかったりする。しかしこれは、まだ痛いか、それとも痛くないかに関係しない。椎間円板の役割についての外科医の混乱は、突出した椎間円板を取り除く手術の割合が、国によって大きく異ることに反映されている。10年前に、10万人当たり、英国で100人、スウェーデンで200人、フィンランドで350人、米国で900人であった。この割合は現在下がり続けていて、神話がばらまかれて、少数の人の利益になるが多くの人の不利益になるような不名誉な時代は終わった。不利益を受けたある人たちは、手術の結果、明らかにいっそう悪くなった。」
。



