なぜ日本の慢性痛は遅れたのか― 海外では何が起きていたのか ―

痛みに対する考え方の流れ

慢性痛について調べていると、
「色々やっているのに良くならない」
「説明が人によって全然違う」
と感じたことがあるかもしれません。

その背景には、日本特有の構造的な問題があります。

日本の慢性痛は、諸外国より20〜30年遅れている

これは感覚的な話ではありません。
海外ではすでに主流になっている考え方が、
日本では今なお“新しいもの”として扱われているのが現状です。

その結果、

  • 今も「原因=痛む場所」に注目し続ける
  • 画像や検査で異常がないと説明が止まる
  • 「年齢のせい」「気のせい」と言われてしまう

といった状況が起こりやすくなっています。

なぜ日本だけ、考え方が更新されにくかったのか

理由はいくつかありますが、特に大きいのは次の点です。

① 局所原因モデルが長く成功してきた

外傷・骨折・炎症など
「原因がはっきりした痛み」に対しては、
日本の医療は非常に高い成果を上げてきました。

その成功体験が強かったため、
「原因が見つからない痛み」への対応が後回しになりました。

② 専門分化が進みすぎた

  • 整形外科
  • 神経内科
  • 心療内科

それぞれが分断され、
慢性痛を“全体で扱う枠組み”が育ちにくかったのです。

③ 「痛み=身体の問題」という前提が強かった

海外では
「痛みは感覚であり、脳の経験でもある」
という考え方が広がりましたが、

日本では長く
「構造が原因で痛む」
という説明が主流でした。

では、海外では何が起きていたのか

海外では1990年代以降、
慢性痛に対する考え方が大きく変わっていきます。

痛みは「入力」ではなく「処理」だという理解

  • 痛みは、脳が安全かどうかを判断した結果として生じる
  • 組織の状態と痛みの強さは一致しないことが多い
  • 同じ刺激でも、状況や感情で痛みは変わる

この理解が進みました。

中枢神経の可塑性が注目される

  • 脳と神経は変化する
  • 痛みも「学習される」
  • 逆に言えば、学習は書き換えられる

という視点が広がります。

「慢性痛」という独立した状態として扱われる

慢性痛は
「治らない急性痛」ではなく、
別のメカニズムを持つ状態
として整理されました。

ここで初めて、

  • 感覚過敏
  • 睡眠障害
  • 不安・抑うつ
  • 集中力低下
  • 天気への過敏性

といった症状が
ひとつの流れとして説明できるようになります。

情報があっても、判断できない理由

慢性痛の人は、もう十分な情報を持っています。

問題は、
その情報が「いつの時代の、どの考え方か」を判断できない
ことです。

  • 昔の理論でも、今も堂々と語られる
  • 海外では見直された説明が、最新のように見える
  • 何を信じていいか分からなくなる

医療の専門教育を受けていない人にとって、
これは非常に難しい問題です。

当院が大切にしている視点

当院では、

  • 痛みの場所だけを追い続ける
  • 原因探しだけを繰り返す

ことは行いません。

その情報が、世界の中でどの位置にあるのか
という視点を大切にしながら、

  • 今の状態をどう理解すればいいのか
  • 何を続け、何を手放すべきか

を一緒に整理していきます。

最後に

慢性痛が長引く理由は、
「努力不足」や「意志の弱さ」ではありません。

情報の地図を持たないまま、迷い続けてしまうこと
その構造自体が、長期化を招いているのです。

必要なのは、
新しい方法を次々試すことではなく、
今の自分が立っている場所を知ること

そのための視点を、当院では大切にしています。

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