「脊柱管が狭くなっています」
「神経が圧迫されているので、足が痛いのでしょう」
このような説明を受けると、
「このまま歩けなくなるのではないか」
「もっと狭くなったらどうしよう」
「手術をしないと治らないのではないか」
と不安になる方も少なくありません。
腰部脊柱管狭窄症によって、足の痛みやしびれ、歩行障害などが生じることはあります。
一方で、MRIで脊柱管が狭く写っていることと、現在感じている腰痛や足の痛みがすべてその狭窄によって生じていることは、必ずしも同じではありません。
実際、MRIではかなり強い脊柱管狭窄がみられるのに、ほとんど症状のない方もいます。
大切なのは、画像だけを見るのではなく、
- どのような症状があるのか
- 神経の働きに異常がないか
- どのような姿勢や動作で症状が変化するのか
- 筋肉や筋膜、関節などが関係していないか
などを一緒に確認し、現在の症状の内訳を整理していくことです。
腰部脊柱管狭窄症とは
脊柱管とは、背骨の中にある神経の通り道です。
腰の部分では、加齢などに伴って椎間板が膨らんだり、椎間関節が変形したり、黄色靱帯が厚くなったりすることで、脊柱管が狭くなることがあります。
このような状態によって神経症状を生じるものが、一般に腰部脊柱管狭窄症と呼ばれています。
主な症状には、
- お尻から足にかけての痛み
- 足のしびれ
- 足の感覚異常
- 足の力が入りにくい
- 長い距離を歩きにくい
- 立っていると症状が強くなる
などがあります。
ただし、腰痛そのものは脊柱管狭窄症だけにみられる症状ではありません。
腰痛や臀部痛、足の痛みには、筋肉、筋膜、関節、神経などさまざまな組織が関係する可能性があります。
間欠性跛行とは
腰部脊柱管狭窄症で特徴的な症状のひとつとして、「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」があります。
歩いているうちに足の痛みやしびれ、だるさなどが強くなり、しばらく休むと再び歩けるようになる状態です。
腰部脊柱管狭窄症では、立っていたり歩いたりすると症状が強くなり、座ったり前かがみになったりすると楽になる傾向があります。
ただし、歩行によって足が痛くなる病気は脊柱管狭窄症だけではありません。
足への血流が不足する末梢動脈疾患などでも、似たような間欠性跛行がみられることがあります。
そのため、
「歩くと足が痛くなる=脊柱管狭窄症」
と症状だけで決めることはできません。

脊柱管が狭くても症状のない人はたくさんいます
ここで知っておいていただきたいのが、MRIで脊柱管が狭く写っていても、必ず症状が出るわけではないということです。
日本で行われた「Wakayama Spine Study」では、和歌山県の住民1,009人を対象に調査が行われました。
画像所見と症状の両方を満たした「症候性腰部脊柱管狭窄症」の割合は9.3%でした。
さらに938人を対象として画像所見と症状との関係を調べた別の解析では、77.9%に中等度以上の中央脊柱管狭窄が認められ、30.4%には重度の狭窄がみられました。
しかし、重度の中央脊柱管狭窄があった人でも、症状が認められたのは17.5%でした。
つまり、
「MRIで脊柱管が狭い」ことと、「その人に症状がある」ことは一対一ではありません。
もちろん、画像検査が不要という意味ではありません。
MRIなどの画像検査は、身体の状態を把握するための非常に重要な情報です。
ただし、画像所見だけで現在感じているすべての痛みを説明できるとは限らない、ということです。
「神経が圧迫されているから痛い」は、それほど単純ではありません
一般には、
「神経が圧迫されると痛みが出る」
と考えられがちです。
しかし、神経生理学的にはもう少し複雑です。
生理学者の熊澤孝朗先生は、著書『痛みを知る』の中で次のように述べています。
「神経線維は通常、その末端の受容器からの信号を伝えるものであって、その途中が興奮する様なことはありません。」
書籍『痛みを知る』より引用
通常、痛みを伝える神経線維は、その末梢にある侵害受容器が刺激されたことで発生した信号を、脊髄や脳へ伝える役割を担っています。
つまり、
正常な神経線維が途中で圧迫されれば、それだけで自動的に痛みの信号を作り出す
という単純な仕組みではありません。
では、神経そのものが原因となって痛みが生じる場合には、何が起きているのでしょうか。
神経そのものから痛みの信号が発生する「異所性興奮」
横田敏勝先生の著書『臨床医のための痛みのメカニズム』では、痛覚線維の生理的な興奮について、
痛覚線維の末梢に存在する自由神経終末の侵害受容器が刺激されたときに起こると説明されています。
一方で、侵害受容器を介さず、神経線維の途中からインパルスが発生することがあります。
これを異所性興奮といいます。
異所性興奮を生じる可能性が高い場所として、
- 脱髄した神経
- 傷害された末梢神経
- 神経損傷後に形成された神経腫
などが挙げられています。
したがって、
正常な神経を単純に圧迫することと、傷害された神経から異常な興奮が発生することは、分けて考える必要があります。
正常な神経根を圧迫しただけでは痛みが出ないことがある
『臨床医のための痛みのメカニズム』では、神経根痛についても興味深い説明があります。
一般には脊髄神経根を圧迫すると、その神経の支配領域に神経根痛が走ると考えられています。
しかし、この考えがそのまま当てはまるのは特別な場合であるとされています。
実験動物では、正常な脊髄後根を圧迫しても、痛みを伝える侵害受容線維を含めた求心性線維に持続的な発射活動は誘発されません。
一方、あらかじめ傷害された脊髄後根を機械的に刺激すると、持続的なスパイク発射が誘発されることがあります。
また、人の正常な脊髄神経根をバルーンカテーテルで圧迫した研究では、錯感覚や感覚鈍麻が誘発されても、痛みは生じなかったとされています。
正常な神経根を牽引しても痛みが生じない一方、傷害歴のある神経根では、機械刺激によって特徴的な神経根痛が生じることがあります。
こうした知見からも、
「神経への圧迫」=「そのまま痛み」
と考えるだけでは、神経根痛の仕組みを十分に説明できません。
手術中に実際の組織を刺激した研究
1991年、Kuslichらは椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの手術を受けた193人を対象に、局所麻酔下で腰椎周囲のさまざまな組織を刺激し、どのような感覚が誘発されるのかを調べました。
この研究は、
「腰や足の痛みが実際にはどの組織から生じているのか」
を人で調べた非常に興味深い研究です。
こうした神経生理学や臨床研究から考えても、
「画像で神経が圧迫されているように見えるから、その圧迫そのものが痛みの原因である」
と単純に結びつけることはできません。
ただし、これは「神経の障害では痛みが起きない」という意味ではありません。
神経に炎症や損傷、脱髄などが生じ、異所性興奮が起きれば、神経障害性疼痛や神経根痛が生じる可能性があります。
大切なのは、
「画像上の圧迫」
「神経そのものの障害」
「現在感じている痛み」
をすべて同じものとして扱わないことです。
足が痛ければ、すべて神経の痛みなのでしょうか?
そうとは限りません。
腰やお尻にある筋肉や筋膜、関節などから生じた痛みが、離れた場所に感じられることがあります。
これを関連痛といいます。
たとえば腰部や臀部の筋肉・筋膜に問題が生じた場合、
- 臀部
- 太もも
- 膝周囲
- ふくらはぎ
などに痛みが広がることがあります。
そのため、
「足に痛みがある=坐骨神経が圧迫されている」
とは限りません。
筋膜性疼痛症候群(MPS)でも足に痛みが出ることがあります
筋膜性疼痛症候群(MPS)は、筋肉や筋膜などに痛みを生じる状態です。
特徴のひとつとして、問題となっている場所と、本人が痛みを感じている場所が一致しないことがあります。
たとえば臀部の筋肉を刺激した際に、本人がいつも感じている太ももやふくらはぎの痛みが再現されることがあります。
このような関連痛は、神経痛とよく似た場所に現れることがあります。
そのため、MRIで脊柱管狭窄が確認されている方でも、
現在感じている腰や足の痛みに、筋膜性疼痛が重なっていないか
を確認することには意味があります。
関節からも離れた場所に痛みが出ることがあります
筋肉だけではありません。
腰椎、仙腸関節、股関節などの関節から生じた痛みも、臀部や太ももなど離れた場所に感じることがあります。
これも関連痛です。
そのため、
「腰から足まで痛い」
「MRIで狭窄がある」
という二つの情報だけから、
現在の痛みのすべてが神経由来であると考える必要はありません。
明らかな進行性の神経脱落症状が認められない場合には、筋膜性疼痛や関節由来の関連痛など、神経以外の要素が症状に関与していないかを検討することも重要です。
脊柱管狭窄症なら手術が必要なのでしょうか?
脊柱管狭窄症と診断されたからといって、すべての方に手術が必要になるわけではありません。
2015年に『Annals of Internal Medicine』に掲載された無作為化比較試験では、手術適応と判断された50歳以上の腰部脊柱管狭窄症患者169人を、
- 腰椎除圧術
- 理学療法
に無作為に分けて比較しました。
2年後の身体機能を比較したところ、解析上、両群の間に統計学的に有意な差は認められませんでした。
このような症状がある場合は医療機関へ
画像所見を必要以上に怖がる必要はありません。
しかし反対に、すべての腰痛や足の痛みを筋肉や関節の問題として考えることも適切ではありません。
特に、
- 足の筋力低下が進行している
- 急に歩きにくくなってきた
- 足の麻痺が進んでいる
- 排尿や排便の異常がある
- 会陰部(自転車のサドルが当たる部分)周囲の感覚がおかしい
- 両足に急激な神経症状が現れた
といった場合には、神経への重大な障害が起きている可能性があります。
このような症状がある場合には、速やかに医療機関を受診してください。
状態によっては、手術を含めた専門的な治療が必要になることがあります。
おおしま接骨院では
おおしま接骨院には、
「病院で脊柱管狭窄症と言われた」
「MRIで神経が圧迫されていると言われた」
「長く治療しているけれど腰や足の痛みが続いている」
「もう手術しかないのではないかと不安になった」
という方が来院されることがあります。
当院では、医療機関でつけられた診断を否定するのではなく、現在の身体の状態を確認していきます。
具体的には、
- どこに痛みやしびれを感じているのか
- どのような姿勢や動作で症状が変化するのか
- 筋力低下や感覚障害などがないか
- 腰や股関節などがどのように動いているか
- 筋肉や筋膜への刺激で普段の痛みが再現されるか
- 関節機能が症状に関係している可能性がないか
などを確認します。
脊柱管狭窄という画像所見があっても、筋膜性疼痛や関節由来の関連痛など、別の要素が現在の痛みに重なっている場合があります。
特に明らかな進行性の麻痺や神経脱落症状が認められない場合には、こうした筋肉・筋膜や関節などの要素についても確認していくことが大切だと考えています。
必要があると判断した場合には、医療機関での検査や診察をおすすめします。
脊柱管狭窄症と診断され、2年間腰と足の痛みが続いていた方
当院には、医療機関で腰部脊柱管狭窄症と診断された後も、長期間にわたって腰や足の痛みが続いている方が来院されることがあります。
以前ご紹介した方は、2年前から腰と右足の痛みに悩まされ、医療機関でレントゲン検査を受け、腰部脊柱管狭窄症と診断されていました。
来院時には明らかな神経脱落症状はみられませんでしたが、身体を確認すると全身の筋肉に強い圧痛が認められました。
そこで筋膜性疼痛の関与を考えながら対応したところ、2回目の施術後から症状に変化がみられ、その後も経過を確認しながら施術を行いました。
このように、
脊柱管狭窄という画像所見があることと、現在感じている痛みのすべてが狭窄から生じていることは分けて考える必要があります。
→ 「脊柱管狭窄症と診断され、2年間続いた腰・足の痛みの症例」を読む
「狭窄がある」ことと「現在の痛み」は分けて考えましょう
MRIで脊柱管が狭く写っていると言われれば、不安になるのは当然です。
しかし、
画像に異常があることと、その画像所見が現在感じている痛みのすべてを説明していることは同じではありません。
実際、日本人を対象とした研究でも、中等度以上の脊柱管狭窄は非常に多くみられる一方、症状を持つ人はその一部でした。
また、神経生理学的にも、
正常な神経への単純な圧迫
と
傷害された神経から生じる異常な興奮
は同じものではありません。
そして腰や足の痛みには、
- 神経
- 筋肉・筋膜
- 関節
- その他の身体組織
など、複数の要素が関係する可能性があります。
そのため大切なのは、
「脊柱管が狭いかどうか」だけではなく、「現在の症状に何が関与しているのか」を整理することです。
脊柱管狭窄症と診断されたあとも腰や足の痛みが続き、
「本当にこの痛みは全部、狭窄のせいなのだろうか」
と疑問や不安を感じている方は、一度身体の状態を整理してみることも一つの方法です。
脊柱管狭窄症と診断されていても、腰や足の痛みのすべてが画像所見だけで説明できるとは限りません。
「病院では狭窄症と言われたけれど、なかなか症状が変わらない」
「この痛みが本当に神経から来ているのか、一度整理したい」
「手術以外にできることがないか考えたい」
そのような方は、一度おおしま接骨院にご相談ください。
当院では、医療機関での診断を否定するのではなく、症状の出方や身体の動き、筋肉・筋膜、関節などを確認しながら、現在の痛みにどのような要素が関わっている可能性があるのかを一緒に整理していきます。
必要に応じて医療機関での検査や受診をご案内しながら、今できることを考えていきます。
脊柱管狭窄症と診断されたあとも腰や足の痛みが続いている方は、一度、当院で身体の状態を確認してみませんか。
参考文献
- Ishimoto Y, Yoshimura N, Muraki S, et al. Prevalence of symptomatic lumbar spinal stenosis and its association with physical performance in a population-based cohort in Japan: the Wakayama Spine Study. Osteoarthritis Cartilage. 2012;20(10):1103-1108. doi:10.1016/j.joca.2012.06.018.
- Ishimoto Y, Yoshimura N, Muraki S, et al. Associations between radiographic lumbar spinal stenosis and clinical symptoms in the general population: the Wakayama Spine Study. Osteoarthritis Cartilage. 2013;21(6):783-788. doi:10.1016/j.joca.2013.02.656.
- Kuslich SD, Ulstrom CL, Michael CJ. The tissue origin of low back pain and sciatica: a report of pain response to tissue stimulation during operations on the lumbar spine using local anesthesia. Orthop Clin North Am. 1991;22(2):181-187.
- Delitto A, Piva SR, Moore CG, et al. Surgery versus nonsurgical treatment of lumbar spinal stenosis: a randomized trial. Ann Intern Med. 2015;162(7):465-473. doi:10.7326/M14-1420.
- 熊澤孝朗.『痛みを知る』東方出版.
- 横田敏勝.『臨床医のための痛みのメカニズム』.







